狩猟民族アイヌが愛用した短刀をルーツとし、道具文化が息づく蝦夷の地より北前船によって能登半島へと伝播された「マキリ」。能登の漁師が腰に備えるこの小刀には、シンプルかつタフ、使いやすく切れやすい「野」の道具としての魅力が凝縮されている。
魚を捌くのはもちろん、網の手入れや絡んだ障害物の切断、ときには嵐の船上で体に巻きついたロープを切り離し、漁撈を生業とする男たちの生活と命を守ってきた。
これひとつでたいていの船仕事をこなせてしまうマキリの万能性は、キャンプや魚釣り、狩猟といった「野」をフィールドとするアウトドアシーンでも大いに役立つだろう。
能登半島にある小さな町で野鍛冶を営む「ふくべ鍛冶」は、能登の暮らしに根付いたマキリの文化を伝えるため、創業以来この小刀を鍛造し続けている。魂を込めた道具づくりは、能登の農と漁に支えられてきた野鍛冶としてのプライドでもあるのだ。
砂鉄と炭によって日本古来の製鉄法、たたら製鉄で作られる和鉄。鉄鉱石から精製される洋鉄とは違い、砂鉄を原料に精製される和鉄は鍛えても脆くなりにくい柔らかさが特長。形が包丁に似ることから包丁鉄とも呼ばれ、その昔から刃物や農具の材料として重宝され日本各地で作られてきた。しかし、現在では島根県出雲地方の一部(日刀保たたら)でしか作られない希少な鉄となっている。
ふくべ鍛冶が製作するマキリの材料は、極軟鉄と炭素量の高い堅硬な鉄が層を成し、さらに粒界が少なく鉄の内部まで錆びにくい特長を持った、純度が高い和鉄に限られる。例えば包丁の地金部分には、能登にある古蔵の窓格子など150年以上前の建造物に使われる和鉄を再利用。強度と粘りを併せ持ち「高機能な天然の複合材」とも言われる和鉄は、刃物の地金に最適な素材なのだ。
和鉄がもつ素材としての魅力、そしてマキリの持ち味である実用性。このふたつを昇華させるのに必要なのが、これまで長きにわたって地域の暮らしを支えてきた野鍛冶の技である。成分が不安定な和鉄を鍛造し、不純物を取り除いた良質な和鉄を新たに精製。鍛造はデリケートな温度調整が可能な松炭にこだわる。農具から包丁、製造から修理まで、人々の暮らしに培われた知恵と技が、ひと叩き、ひと研ぎに込められている。
しっかりメンテナンスすることで切れ味が長く続くマキリ。とくに和鉄を使用する「孫光別作」と「孫光作」は、刃は硬くても地金が柔らかいので心地よい研ぎ味が楽しめます。お困りの際は、包丁研ぎ宅配サービス「ポチスパ」をご利用ください。
食材に含まれる塩分や酸は錆のもと。包丁を使い終わったらすぐに洗いましょう。洗い終わった後は、乾いた布でしっかり水気を拭き取ります。
乾燥後は、椿油など刃物用の油を表面に薄く塗って錆の発生を予防します。長時間使用しない場合は新聞紙にくるんで、湿気のない場所に保管しましょう。
片刃のマキリは刃の表面を砥石にぴったり当てるのがコツ。荒砥石と中砥石、さらに仕上げ用の砥石を用意すると一層キレイに仕上がります。
表面に錆を発見したら早目に市販される錆落としなどで取り除きます。刃先の錆の場合は砥石を使って錆を落としましょう。