MENU

columun

2020.06/27 更新 地域

鍛冶屋の分類と野鍛冶の強み

ひとくちに「鍛冶屋」といっても、仕事の内容によっていくつかの種類に分かれています。どの種類の鍛冶屋も鉄を扱い赤らめた鉄をたたくという部分は共通してるのですが、鍛冶屋は製造する道具によって、大きく3種類に分類することができます。

一つ目は、「刀鍛冶(刀工)」です。刀鍛冶は、刀匠のもとで5年以上研鑽を積み文化庁主催の作刀実地研修会を修了した者にしか名乗る資格が与えられず、非常に厳しい修行が必要となります。現在の日本社会において、日本刀は武器というよりも美術工芸品です。刀鍛冶は、主に実用品の製造を仕事にしている鍛冶業界の中では、特殊な位置づけだといえるかもしれません。

二つ目は「専門鍛冶」です。包丁をつくる包丁鍛冶、鋏をつくる鋏鍛冶、鉈鍛冶、鍬鍛冶、鋸鍛冶、、、などのように、ある用途の道具を量産することに特化した専門性の高い鍛冶屋です。大阪府の堺市や岐阜県の関市、新潟県の燕三条などには、このような専門鍛冶がたくさん存在します。

そして三つ目が「野鍛冶」。包丁、農具・漁具、山林刃物など、暮らしの中の道具を小規模ながら幅広く手掛ける鍛冶屋で、ふくべ鍛冶もこれに含まれます。また、新しい道具をつくるだけではなく修理まで幅広く引き受けることも、野鍛冶の特色だといえるかもしれません。ちなみに、童謡「村の鍛冶屋」の題材となっているのも刀鍛冶や専門鍛冶ではなく野鍛冶です。歌詞の中では「刀は打たねど 大鎌小鎌 / 馬鍬(まぐわ)に作鍬(さくぐわ) 鋤(すき)よ鉈よ」と、鍛冶屋のつくった道具が描かれています。

1950年代以降、農業の機械化や大量に生産された低価格の刃物の流通などによって、野鍛冶の多くは大きな打撃を受けて次々と廃業していきました。また、野鍛冶は一見すると、もっとも鍛冶業界の中で現代的なライフスタイルから遠ざかってしまっているように感じられるかもしれません。しかしながら、一点集中型の鍛冶屋では絶対に請け負わない仕事をすることで、野鍛冶は自らのポジションを確立してきました。

技術的に野鍛冶にしかできないことは無いかもしれませんが、野鍛冶だからこそできる仕事はたくさんあります。産業界や伝統文化などのニッチな分野には、鍛冶屋の技術で解決できるたくさんの「困った」があるはずです。そのような声を拾い集めて解決することは、これまで道具の製造・修理などを通して地域の暮らしを支えてきた野鍛冶だからこそ、担うことのできる役割なのではないでしょうか。そのように考えると、「野鍛冶だからできること」には、無限の可能性が秘められているように思います。