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2023.09/18 更新 未分類

ISICO PRESS October. 2023, vol.130に掲載されました

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情報誌ISICO130号

チャレンジファンド支援事例

能登で100年以上にわたり農林漁業用具や家庭用の刃物を作り続けてきたふくべ鍛冶は、オンラインで包丁の修理を受け付けるサービス「ポチスパ」を2018年から展開している。19年度と22年度のチャレンジファンドを活用してポチスパのウェブサイトやサービス内容を充実させ、販路を拡大。成長の原動力となっている。​


年間1万5,000本を修理 都会からの注文が多数

 ウェブサイトからポチッと申し込むと自宅に専用のボックスが届き、包丁を入れて郵便ポストに投函(とうかん)すれば一週間後にはスパッとした切れ味になって戻ってくる。これがポチスパのサービス内容だ。料金は一本2,780円からで、本数が増えるごとに単価が下がる。刃こぼれの修理、さび取り、ゆがみの調整なども基本料に含む。
 ふくべ鍛冶では日々全国から届く包丁を手作業で研ぎ、修理しており、その数は年間で1万5,000本に上る。「関東圏など、人口が集中するエリアからの注文が中心です」と話すのは、4代目の干場健太朗社長だ。都会では、刃物店や鍛冶店まで包丁を持ち歩くことに抵抗を感じる人が多く、郵送で完結するポチスパが喜ばれるのだという。


量販店の影響で業績低迷 ウェブに活路見いだす

 同社は1908年の開業以来、農林漁業用具の製造と販売を手がけてきた。しかし近年は、こうした道具を安価で売るホームセンターやECサイトで購入する人が増え、業績の悪化が続いていた。
 家業の窮状を何とかしたいと考えた干場社長は、勤めていた能登町役場を2013年に退職し、ふくべ鍛冶に入り、3代目の父・勝治さんに鍛冶の技術を学ぶとともに経営改善に取り組んだ。
 新たな販路を模索し、17年に参加したのがISICOの「ネット活用セミナー」だった。ふくべ鍛冶は当時すでにウェブ上で商品を販売していたが、「インターネットのサービスは、業界の常識を一旦すべて捨てないと成功しない」との考え方を学び、抜本的にウェブ戦略を見直すことにした。
ポチスパの専用ボックスの写真 その中で発案したのがポチスパだ。包丁研ぎや修理をオンラインで受け付ける会社はすでにいくつかあったが、注文方法が煩雑だったり梱包方法が厳密だったりと顧客にとって不親切なものばかり。サービス内容をシンプルにすればチャンスがあると考え、18年にポチスパのウェブサイトを開設した。


使いやすさを追求し利用者のハートつかむ

干場健太朗社長の写真 「ポチスパは当初から反響があったが、利用者の伸びはすぐに頭打ちになった」と干場社長は振り返る。ウェブサイトをより分かりやすく、検索で上位表示されるようリニューアルする必要性を感じ、活用したのがチャレンジファンドだ。サイトに訪れた人が戸惑うことなく注文できる導線作りはもちろん、顧客に安心感を持ってもらうため、包丁研ぎの様子を写真で紹介。研ぐ前後の切れ味の違いを比較する動画をサイト内に埋め込むなど、視覚に訴える工夫もした。
 サイトをリニューアルしたのは20年7月。コロナ禍で非対面サービスへのニーズが増えていたこと、同年8月にテレビ番組でふくべ鍛冶が取り上げられたこともあり、利用者は大幅に増加した。干場社長は「ウェブサイトを洗練させれば、訪れた人が関心を深め、申し込みにつながるという実感を得た」と振り返る。今では同社の売り上げは10年前と比べて10倍にアップ。ポチスパがその成長のけん引役となっている。
 これまでポチスパはインターネット経由でしか利用できなかったが、今後はホームセンターや雑貨店で専用ボックスを販売し、間口を広げる計画だ。来店者にサービス内容を理解してもらえるよう、22年度にはチャレンジファンドを活用して、店頭に置くポップや販促物を制作した。「ファンドに背中を押してもらい、ポチスパを次のステップへと進めることができました」と干場社長は同事業の魅力を表現する。


顧客の反応を想像し一本一本心を込めて研ぐ

 10年前は干場社長と勝治さんの2人だった職人の数は、事業の拡大に伴い8人に増えた。鍛冶で一人前になるには15年かかると言われる中、職人に少しでも早く上達してもらうためマニュアル動画を作成するなど、技術伝承のデジタル化も進めている。
 ただ、技術力をどれだけ高めても、顧客第一の精神がなければいいサービスができないというのが、干場社長の考えだ。例えば、包丁のさびやくすみを奇麗にするには、表面に刻まれた名前やロゴも含めて研磨してしまえば効率が良いが、どれだけ手間がかかってもそれらを極力残して修理するのもその表れである。
顧客の要望に応えて作った鍬が20種類以上並ぶ店内の様子の写真 「修理を終えた包丁を見たとき、お客様がどう思うかを常に考えています」と干場社長。それは長年、地場産業の従事者に寄り添い、要望に応えてきたことで培われたふくべ鍛冶ならではのマインドだ。「能登で育ててもらった技術で、刃物で困っている全国の人々の役に立ちたい」とさらなる発展を誓う。

企業情報

企業名株式会社 ふくべ鍛冶
創業・設立創業 1908年7月
事業内容刃物の製造、販売、修理など
https://www.isico.or.jp/i-maga/journal/i111174709.html