メンテナンスをおこないながらひとつの道具を使い続けるという修理・リペアの文化は、大量生産や使い捨てなど過度な消費社会に警鐘が鳴らされる現在、限りある資源を有効に活用するための技術として再評価され、注目を集めています。
ふくべ鍛冶では年間3,500件を超える修理を手掛けていますが、その中でもっとも件数の多い内容は、包丁や鎌、鉈などさまざまな刃物の「研ぎ直し」です。今回は、そんな研ぎ直しに欠かせない砥石についてご紹介します。
砥石の表面はザラザラとしており、その凹凸を利用して刃物を研ぎます。砥石は粒子の細かさによって、荒砥石(#120~400程度)・中砥石(#800~1500程度)・仕上砥石(#3000~)の3種類に分類することができます。かっこ内の数字は1cm四方の粒子の数を表しており、用途や刃物に合わせた砥石選びの目安となります。
刃物を研ぐ順序としては、まず始めに荒砥石で大きな欠けや錆びを取り除き、中砥石、仕上砥石の順に研いで切れ味を蘇らせます。ご家庭用の包丁の場合、中砥石まででも食材を切るために十分な刃がつきますが、最後に仕上砥石を使うことによって刃が鋭くなり、切れ味が一段上がります。そのためふくべ鍛冶では、研ぎ直しでお預かりしたすべての包丁を、最後に仕上砥石を使って研いでいます。また包丁以外にも、木を薄く削る鑿(のみ)や鉋(かんな)などの大工道具などもこの砥石で仕上げます。
研いだ刃を顕微鏡で拡大してみると、刃先はまるでノコギリのように鋸歯状になっていることが確認できます。研いだのにギザギザ?と思われるかもしれませんが、このギザギザが切れ味の秘訣。細かく鋸歯状になった刃が食材に食いつき、鮮やかに切れるのです。この切れ味を確認するために、職人は自分の爪に刃を当てます。すこし刃を引いてみて爪にひっかかる感覚があれば、しっかりと研げている証拠。研げていないときは、爪の上を刃が滑ってしまいます。もちろん爪とはいえ体の一部を傷つける行為ではあるため、誰にでもオススメできる方法ではないかもしれません。爪に刃を当てるのはちょっと…という方は、新聞紙を切ってみるなどほかにも確認方法はありますので、どうぞご安心ください。
最近では簡易的に包丁の切れ味を戻すことのできるシャープナーもよく見かけますが、シャープナーは一時的に刃先を荒くすることによって切れ味を戻すもので、砥石による研ぎ直しとは仕上がりの質が大きく異なります。ともすればシャープナーの多用は、刃先の強度低下や刃が欠けてしまう原因にもなります。シャープナーでは刃先の部分しか研ぐことができないため、研いだ直後は切れ味が戻りますが刃先は薄くなっていくため、使用しているうちに刃先が丸まり、切れ味はどんどん悪くなってしまいます。しかし砥石の場合は刃全体を研ぐために刃先を鋭角に保つことができ、包丁に余計な負担をかけずに切れ味が長く続きます。
メンテナンスをしながら使用すれば、次第にその刃物に対する愛着も深まるはず。切れ味が落ちてきたら新しく買いなおす以外にも、「メンテナンス」という選択肢も忘れないでください。